心にしみる天才の逸話20―天才科学者の人柄、生活、発想のエピソード (ブルーバックス)

２０人の科学者について、興味深いエピソードを大小取り混ぜて集めたもの。大昔の子ども向け偉人伝や教師のおざなりな説明を通じてしかこれら科学者に接してこなかった人には新鮮に感じられることだろう。２０人の人選や配列には工夫の余地もあるだろうが、本書の参考文献に挙げられているような本のおいしいところを、忙しい読者のために抜き出してくれたと考えればまずまずの出来。同系列の内容の『素顔の科学誌』（左巻健男編東京図書）とともに、科学者の逸話集として気楽に楽しめる本だ。ただし、著者の描くダーウィン像については強い違和感を感じたことを記しておきたい。ダーウィンと同時に（あるいは一歩先んじて）進化論にたどりついたウォーレスの存在にスポットライトを当てるのはい!いことだし、ダーウィンの友人らが彼の先取権を守るため「調整」に立ちまわったことも、（そして、ダーウィンが最終的にそれを押しとどめはしなかったことも）事実だが、その間の事情を、「それは、だれがどう見ても、ダーウィンがイギリス貴族の名を借りて、一介の市民科学者のウォーレスを抹殺し、進化論の名声を独り占めしようとするものだった」という著者の総括は単純化が過ぎるだろう。なお、進化論の先取権問題にかかわる「微妙な調整」については、『ダーウィンに消された男』(アーノルド・ブラックマン著朝日選書）がネタ本としてよく引きあいに出されるが、その共訳者のひとり、新妻昭夫氏が、ウォーレスとその学説、ダーウィンとの交流などについて詳述した名著『種の起源を求めて』が、ちくま学芸文庫から再刊されている。ウォーレスに興味を持たれた方には、こちらをおすすめしておきたい。