J・G・バラード短編全集3 (終着の浜辺)

本書の代表作である２篇『終着の浜辺』と『光り輝く男』をとりあげてみる。『終着の浜辺』◆あらすじ太平洋にアメリカ軍がかつて核実験を行っていた無人の島がある。元・空軍のパイロットだった男がひとりで上陸する。その目的は明らかにされていない。島の大半はコンクリートで固められて、人工的な風景になっている。男は島の探検めいたことを繰り返していた。男は、妻と6歳の息子を交通事故で亡くしていた。島に妻と息子の幽霊が何度も現れる。数カ月後、科学調査チームが来る。「この島は心の状態なのだ」と科学調査チームのひとりが男に語った。日本人の死体を発見する。年数の経ったものだ。医者だった死者と男の対話が始まる。話は哲学的なものになっていく。◆感想時代の雰囲気が大きく反映している。冷戦状態だったソ連とアメリカが緊張緩和によって安定してきた頃だが、核戦争の恐怖が当時の知識人を支配していたのではないか。妻子を不意に失った男は生きる目的を失って世界をさまよい、行き着いたのは、自分の心の中へ深く沈んでいくことなのかもしれない。次に本邦初訳の『光り輝く男』◆あらすじフロリダのジャングルで森が「結晶化し、あらゆるものが色ガラスになっていく」現象が起こる。調査に行った男の報告である。変人の建築家とその妻を守ろうとする警部などの人間ドラマもあるが、世界が結晶化する壮大な脅威の前では添え物にすぎない。すべてが結晶化していく。川のワニも、流れのある川も、人間も、救援にきたヘリコプターまでもがきらめくガラスとなっていく。対策は、すばやく動き続けることで、結晶化から逃れるしかない。太陽までもが結晶化する徴候を見る。全宇宙に広がっていくのか。◆感想この作品はバラードの代表長編『結晶世界』の元になったもの。世界がどんどん結晶化がされていくという、恐怖だが美しい光景というアイデアがすばらしい。